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感染症の拡大など緊急時に開発されたワクチンや治療薬を速やかに使えるようにするための改正医薬品医療機器法(薬機法)が、13日の参院本会議で可決、成立した。
臨床試験(治験)の最終結果が出る前でも、ワクチンなどを承認できる緊急承認制度の創設が柱である。安全性の確認は必要だが、有効性については、これが推定されれば期限付きで承認できるようになる。
日本は世界有数の創薬国でありながら、新型コロナウイルスワクチンの開発では欧米に後れを取った。法改正はその反省を踏まえたものだ。政府は米国と同様、感染症対策を安全保障政策の一環と位置付け、国産の開発・供給体制の構築を急いでもらいたい。
現行制度には、海外当局が認めた医薬品を早期承認できる特例承認制度がある。だが、日本人への有効性や安全性を確認する臨床データが不十分な場合、国内治験を行わなければならないという制約があった。ほかに条件付き早期承認制度もあるが、患者数が少ない希少疾病用医薬品などが対象であり、緊急時を想定していない。
コロナ禍でワクチン開発が遅れたのは、平成21年の新型インフルエンザ流行時の教訓を10年以上も放置してきた政府の不作為も一因だ。専門家らでつくる厚生労働省の対策総括会議は22年、ワクチンの開発推進や生産体制の強化を盛り込んだ報告書をまとめた。
ところが政府は、この報告書を活かそうとはしなかった。今回の法改正は、あくまでもこれを取り戻すための一歩にすぎない。
制度を活用するには、平時からの研究開発が欠かせない。ただし感染症ワクチンの場合、企業が多額の資金を投入しても、流行しなければ費用が無駄になりかねないリスクがある。政府は開発を後押しするため、資金面での支援を大幅に強化すべきである。
有効性の推定で承認できる新制度の運用にあたっては、効果と副反応について、これまで以上に丁寧に国民に説明し、不安の払拭に努めてほしい。健康被害への監視機能を強化する必要もある。ワクチンは健康な人に投与する点で他の医薬品とは性格が異なる。このことを改めて肝に銘じたい。
世界に先駆けたワクチンや薬の開発は国民の健康確保に資するだけではない。国際社会にも貢献できれば素晴らしいではないか。